「ただいまー」
 オルムが無造作に扉を開け、
「遅いぞ、すっとこどっこい」
 扉の奥から突き出された足が、問答無用でオルムを蹴り飛ばしました。
 オルムはまるで北斗神拳を受けたザコのような悲鳴をあげつつ、派手に吹き飛び隣家の壁に激突して沈黙します。
 それをアールマティとペロは、何も反応できずに呆然と見ていました。
 しばらくピクリとも動かなかったオルムですが、やがて身を起こすと、けろりとした顔で
「んー。ちょっと遺跡でゴタゴタがあってね」
 と自分を蹴り飛ばした黒髪をショートカットにした年上の女性に向かって答えました。
「……オルム殿、この女性は一体……?」
 一歩下がって尋ねるペロに、彼は簡潔に答えます。
「この人は俺の叔母で、ミスラっていうんだ。ついでに、この酒場の現当主」
「どうでもいいが、オルムズィード。この偉そうな猫と白痴っぽい娘は何だ?」
 ミスラ、と紹介された女性は、口にくわえたコーンパイプを吹かしつつ尋ねました。
 酷評されたペロとアールマティが鼻白みますが、オルムは二人が口を開く前に叔母に二人を紹介します。
「こっちの喋る猫がペロで、こっちの女の子がアールマティ。連れて来た理由は話が長くなるから、後でね」
「ふむ」
 そう呟き、ミスラは再びパイプを吹かします。少し何かを考える素振りを見せた彼女ですが、
「まあ、理由はどうでもいい。店の前でゴタゴタすると客が逃げるしな。入って来い」
 そう言うと、店の奥につかつかと歩いて行きました。
 彼女の姿が見えなくなってから。
「……なんなのであるか、あの偉そうな態度は」
 結構憤慨した様子でペロが言います。アールマティもそれに肯き
「そうよねー。ムッと来るよねー」
 と言っています。
 オルムは額に手を当てて頭を左右に振り、そして息を吐いてから二人に告げました。
「どう思ってもいいけど、あの人を怒らすことだけはしないほうがいいよ?」
 訝しげな顔をする二人に、彼は言葉を続けます。
「そうしないと……」
『そうしないと?』
 ペロとアールマティが異口同音に聞き返します。オルムは再び息を吐くと、簡潔に答えました。
捌かれるよ?
『何が?』
「色々と。まあ人生いろいろ! ってことで、大人しく従ったほうが懸命かと」
 それだけ告げると、彼は平然と酒場に入って行きました。
 通りに残された二人はしばらく顔を見合わせましたが、やがて一つ肯くと、まるで勇者が竜の巣に入って行くかのような表情を浮かべると酒場の扉をくぐりました。



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