「ところで、オルムズィード」
オルムたち3人が軽い食事を取っていると、エプロン姿のミスラがテーブルの側に歩いて来て声をかけました。
「なんだい、叔母さん」
そう応えるオルムの顔面に肘鉄を一発叩き込んで、ミスラはもう一度口を開きます。
「ところで、オルムズィード」
「……なんでございましょうか、ミスラさん」
顔を抑えて突っ伏しつつ、それでもちゃんと訂正してオルムは応えます。
ミスラはパイプを吸い、煙を輪にして吐き出してから彼に尋ねました。
「この白痴娘とケッタイな猫は、一体どういう成り行きでお前について来たんだ?」
白痴娘と呼ばれたアールマティが頭に青筋を浮かべ、ケッタイな猫と呼ばれたペロが口の中で文句をぶちぶち言いますが、オルムはそれに気付かないフリをしてミスラに答えます。
「アールマティは、……なんと言うか、」
少し言葉を選び、
「俺が探索に行った遺跡で見つけたんだ。遺跡の奥で倒れていたんだけど、どうも記憶を失っているみたいで、……どうも放っておけなかったんだ」
「……ふむ」
パイプを吹かし、小さく肯くミスラ。どうも納得していない様子ですが、それ以上追求せずに視線でペロの説明を促しました。
オルムは肯くと、海産物に舌鼓を打っているペロを見て
「で、こっちが喋る山猫のペロ。本人曰く、マッドな魔術師の魔法で知性を持った山猫。連れて来たのは……純粋な好奇心から」
そう答えました。
純粋な好奇心から、という言葉に何か引っかかりと言うか悪い予感を覚えたペロでしたが、それ以上追及せずにハマチの刺身を食べる事に専念しました。
説明を聞いてミスラは溜息をつき、パイプの灰を灰皿に落しつつ口を開きます。
「それは、分かった。で、こいつらに何をさせる?」
何のことだ、という顔をする二人の先を制し、
「ただ飯を食うつもりじゃないだろうな?」
と鷹が得物を見るような目で睨みます。
二人としては寝耳に水の話であり、どうしようか、と互いの顔を見合わせました。
「叔母……」
今度は鉄拳が眉間に突き刺さります。
「…………ミスラさん、つまりは二人ともこの店で何かしら働けってことですか?」
目に涙を浮かべつつ言ったオルムの言葉に肯き、それから少し考えて宣言しました。
「……いや。別にこの店でなくてもいいが、ともかくここに住むつもりならそれなりの家賃は請求するから、そのつもりでな」
んー、叔母さんって昔っからこういうのはキッチリしてるんだよなー、と心の中で呟くオルム。
しかし居候を決め込むつもりだったらしい二人にとっては寝耳に水の話らしく、
「ミスラのけちー」
「けちであるな」
「横暴だー」
「再審を要求するのである」
などと口々に文句を言いますが、ミスラは表情を一切変えずに微塵の容赦も躊躇も無く二人のこめかみフックを叩き込むと、
「なお、我が『ダンジョンマスター』では現在ウェイター及びウェイトレスのバイトを募集している。参考にするといい」
そう言い残してどこかへ出かけて行きました。
後に残ったのは、こめかみから煙を噴いてぶっ倒れている二人とオルムのみ。
しばらく何か考え事をしていたオルムですが、やがて一つ溜息をつくとカウンターの向こうで料理の下ごしらえをはじめました。
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