2001年8月28日(25日ですが) 「広島OFFレポート!」(全文) |
晴天のなか、私は歩いていた。台風が過ぎ去ったあとなので風は強い。何度かカウボーイハットを取られそうになった。 生い茂る木々で挟まれた道の中、1つのモニュメントがあった。 私はそこで足を止め、像を見つめる。間違いない、ここが私が探していた場所だ。 その像は両手を広げて仰向けに倒れた人のように見える。 この碑は『原爆犠牲ヒロシマの碑』と言い、上にある像は第2の『原爆の子の像』と言われている。 原爆ドームのすぐ下を流れる元安川河床のフィールドワークによって見つけられた原爆瓦によって作られたモニュメントだ。 この像を作るために全国各地の小中高学校に募金を募り、3500万円以上集まったらしい。 上に乗っている象はかなり前衛的でそんなにお金が掛かっている様に思えない。はっきり言うと子供には理解されないだろう。 子供からお金を巻き上げておいてその程度の物しか作らないあたり、かなりの矛盾が感じられる。 まあ、そんな事はどうでも良いとして、像にはまるでお墓の様に色々な物が備えられている。まあ碑では在るのだが…… 昨日の台風で大半は飛ばされた筈であるから、今朝から持ってこられた物であろう。 まずは色取り取りの千羽鶴。近くの学校で子供達をボランティアと言う強制労働に借り出して作らせた物であろう。 他には観光客が置いていった封を切られていないお菓子。ただ銘柄にヒロシマ土産『紅葉饅頭』と書いてある。ちなみにここから歩いて5分のところにも売っていたのを私は見た。 碑文には 天が まっかに 燃えたとき わたしの からだは とかされた ヒロシマの 叫びを ともに 世界の人よ と刻まれている。ここにいるだけで原爆で死んだ人々の無念が伝わってくる様で胸が熱くなる。 ここで私はアレを実行するとつもりだ。 限りなく私の胸を熱くするあの咆哮を実行に移すのだ。 そのために私は大枚をはたいてここまで来た。 そしてこの瞬間の為に色々な準備もしている。 「クククククッ、あれヲ実行スル時ガ来タ」 そんな私の独り言を聞いたのか、近くを散歩していたお爺さんがビクッとなる。 愉快だ。 そう言えばさっきから道を歩いている時、異様に人の視線を集めていた気がする。 カップルは私を避けていたし、子供は私を指差し母親に止められていた。更には犬にほえられすらした。 他にも、アニメキャラのイラスト入りTシャツを着ているような奴には、サインさえ求められた。 鏡を出して顔を確認するが、いつの様にモノアイとタコのような口、頬髭にも見えるパイプ、それしか見えない。 まあここまでハンサムな人にはあった事がないだけかもしれない。 そう思い込んで私は、あの尊敬する、偉大なるゲルのお言葉を民衆に伝えようとする。 「諸君 私は戦争が好きだ!」 始めのこの台詞だけで愚劣な民衆の視線が私に集まる。なんとも言えない快感だ。 そして私は注目を集めていることを理解すると、また神の言葉を紡ぎ始める。 「諸君私は 戦争が好きだ! 諸君 私は戦争が大好きだ!! 殲滅戦が好きだ 電撃戦が好きだ 打撃戦が好きだ 防衛戦が好きだ 包囲戦が好きだ 突破戦が好きだ 退却戦が好きだ 掃討戦が好きだ 撤退戦が好きだ 平原で 街道で 塹壕で 草原で 凍土で 砂漠で 海上で 空中で 泥中で 湿原で この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ! 戦列をならべた砲兵の一斉発射が 轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ 空中高く放り上げられた敵兵が 効力射でばらばらになった時など心がおどる 戦車兵の操るティーゲルの88mmが 敵戦車を撃破するのが好きだ 悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を MGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった 銃剣先をそろえた歩兵の横隊が 敵の戦列を蹂躙するのが好きだ 恐慌状態の新兵が 既に息絶えた敵兵を 何度も何度も刺突している様など感動すら覚える 敗北主義の逃亡兵達を 街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない 泣き叫ぶ虚兵達が 私の振り下ろした手の平とともに 金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ 哀れな抵抗者達が 雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたものを 80p列車砲の4.8t榴爆弾が 都市区画ごと木端微塵に粉砕したときなど絶頂すら覚える 露助の機甲師団に無茶苦茶にされるのが好きだ 必死に守るはずだった村々が蹂躙され 女子供が犯され 殺されていく様はとてもとても悲しいものだ 英米の物量に押し潰されて 殲滅されるのが好きだ 英米攻撃機に追いまわされ 害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ」 ここまで言った時点で間抜けな犬が2匹やってくる。神の所業を止めようとするとは愚かな事だ。 わたしは気にせず、台詞を続ける。あいつ等への対応は全てが終ってからで十分だ。 「諸君 私は戦争を 地獄の様な戦争を望んでいる 諸君 私に付き従う大隊戦友諸君 君達は一体 何を望んでいる? 更なる戦争を望むか? 情け容赦のない 糞の様な戦争を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐のような闘争を望むか?」 『戦争!!(クリーク) 戦争!!(クリーク) 戦争!!(クリーク)』 持ってきていたカセットテープから叫びが木魂する。ここにいるクソドモにはまったく期待をしていなかった。 犬ドモもわたしにどう対応してよいのか分からず、無線で指示を要請しているようだ。 「よろしい ならば戦争(クリーク)だ 我々は満身の力をこめて 今まさに振り下ろさんとする握り拳だ だが この暗い闇の底で 半世紀もの間 耐え続けて来た我々に ただの戦争ではもはや足りない 大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!! 我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ敗残兵にすぎない だが諸君は 一騎当千の古強者だと 私は信仰している ならば我らは 諸君と私で 総兵力100万と1人の軍集団となる 我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう 髪の毛をつかんで引きずり降ろし 眼を開けさせ 思い出させよう 連中に恐怖の味を思い出させてやる 連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる 天と地のはざまには 奴らの哲学では思いもよらないことがある事を思い出させてやる 一千人の吸血鬼の戦闘団で 世界を燃やし尽くしてやる」 終った、ついにわたしはやったのだ。その時、強風が吹き千羽鶴が宙を待った。 千羽鶴は結んであった糸が切れたのか、ばらばらに風に舞う。まるで無念を抱えた英霊達が私の偉業を祝福している様だった。 「フフフフフ、ソウカアリガトウ」 思わず、笑みがこぼれてしまった。 「そこの変質者、動くな」 恫喝する声が、外部マイクに届く。見てみると犬は8匹に増えている。 人が悦に入っているというのに無粋な輩だ。 そこで私は神の言葉にしたがって、行動を起こす事にする。 そう、クリークだ。ここでクソドモを片付けたら、きっと神は私を誉めてくれるであろう。 そう考えただけで、背筋がぞくぞくし、エクスタシーを感じる。 「ふざけるな、変態め」 私の動作と表情が気に障ったのだろうか、1人の警察官が私の肩を掴む。 しかし私は冷静に腰に結わえ付けているヒートホークを左手で掴みその手を切り落とした。 ジュッと言う、肉を焼く音と共に腕はぼっとりと二の腕から落ちる。 それから数瞬して巻き起こる悲鳴。腕を切り落ちした者の――ではない。彼はすでに気絶もしくは絶命をして地に臥している。 悲鳴を上げた人々はデタラメに走り、私から逃げようとする。なんと言う優越感であろうか、これが強者の快感というものであろう。 だが逃げたところで誰も逃す機はない。 私はすぐに右手でザクマシンガンを抜き、乱射をする。 狙いはつけてはいなかったが、私の演説を聞くために人が密集していたせいもあって、何人、何十人と倒れる。 人々の阿鼻叫喚の中、一心不乱に銃を乱射する。 そんな中、目の前の映像に線が走った。縦が2本、横が2本、縦長の長方形を描く様に。 それはゆっくりとこちら側に開いていき、1人の男が出てくる。男の後ろには白い通路のような物が見える。 「堪能頂けましたかな」 そう言って男は右手を空間に無造作に伸ばした。 カチリッ、スイッチを切った音と共に空間が変わる。 今までの風景は消え、あたりは6畳ほどの狭い部屋になる。正確に言うと狭い部屋に戻った。 「ハイ、トッテモ。シカシ、ドウヤッテイタンデスカ?」 私はそれに答え、微笑んだ。最近の技術とは凄い物だ。 「ああ、これはね、最近のAS技術。分かるかな、電磁迷彩って言うんだけど。それの空間投影機能を応用して部屋全面に映像を流しているんだよ」 後藤正二――そんな名前だったか――ここC&Jのオーナーは自慢げに語った。 「しかし、何だってこんな物が良かったのかい。背景写真起こしだし、人物は映画からの引用だろう。うちにはいっぱいエキストラがいるからそれを使えばよかったのに」 「イエ、えきすとらハ殺セマセンカラ」 「そ、そうかい」 そう言って彼は苦笑した。頬を一筋の汗が流れたような気がしたが、多分それはモノアイの故障であろう。そうである筈だ。 「しかし、なんだってこんな物をやってみたい気になったんだい」 気を取り直そうとしたのか、後藤は話題を変えてきた。しかしそれは私にとって地雷である。 「ウウウウ」 「ど、どうしたんだい」 「おふ会ニ、おふ会ニ行キタカッタンダヨ。デモネ、台風ノセイデ流レッチャッタンダヨ」 「うん、うん分かる。分かるよ」 そう言ってなぜか涙ぐみながら後藤は私に胸を貸してくれた。 『ウワア〜ン』 そして2人の泣き声は深夜まで御近所に騒音を撒き散らしたのであった。 後日談 C&Jは潰れて新しく、C&E(クリーク&エビル)――戦争と悪――と言う店ができたと言う。 |