2001年8月27日(24日ー) 「瑞樹のナ・イ・ショ☆」 |
アタシは今、16年の人生に置いて最大最悪の危機に直面していた。 なんで、この稲葉瑞樹様ともあろう者がこんなミスを…… 恐怖の為か、混乱する思考を必死でまとめようとするけど上手く行かない。 事の始まりは…そう、愛しい白井君に怪しい妖術をかけて狂わせ、アタシの手から奪い取ろうとした淫乱な魔女を社会的に抹殺するため、職員用から体育館裏の凄まじい悪臭を放つくみ取り式のものまで有りとあらゆる男子トイレにアタシが『思いついた』千鳥かなめ真実の姿を赤裸々に暴露してやったの。 当初は巧く行っていた。そう、今までアタシの道を阻もうとしていた敵はすべて排除してきたわ。 これからもそうして全ての敵を闇に葬っていく筈だった。 最初の敵は3歳の時、アタシの遊んでいた公園の砂場を占領したアヤとか言う娘だったかしら? 正義の制裁として3年間市内中の公衆電話をつかって抗議の無言電話をかけ続けたら発狂したあげく一家そろって変な病院にぶち込まれた、ま、当然の報いよね。 そういえば10歳の時アタシのランドセルにコオロギを入れたヒロシは強敵だったわ。 報復のため奴の机に切り取った猫の(中略)をギッシリ詰め込んだところを発見されたの。 奴は卑劣にも教師に告げ口しようと駆けだしたため階段で力一杯突き飛ばしちゃったんだけど、転げ落ちた奴はしぶとく職員室に這っていこうとしたため消化器で(中略)何度も何度も(中略)竹藪に隠し(中略)3週間後に(中略)で発見されたって訳。 他にもアタシの正体に気付きそうになったジョン・F・ケネディ、それをネタに脅迫してきたゴルバチョフ、毎朝ビャンビャンとやかましいお隣のスピッツの為助などなどアタシが敵と認めた存在は例え前を横切っただけの通行人でさえも正義の美名の元、粛正し続けてきた。 しかし、何というミスをアタシはやっちゃったんだろう。 千鳥かなめの使い魔の男がツマンナイ重箱の隅をつつくような些細な事でアタシを追いつめてきたのだ。 「妙な話だな?このラクガキを君が見たとは、因みにここは男子トイレだ」 なによなによ、下らない言いがかりを、どーせ、あのクソ女の事なんだから実際も大差ないわよ、あたしが書かなくてもそのうち誰かがバラすわよッ、あたしはその誰かの代わりに書いてあげただけ、そーよ千鳥かなめは遅かれ早かれ破滅する運命なんだから引導渡すなら早い方が良いに決ってるじゃない。むしろ感謝して欲しいくらいだわ。 「そっ……あっ……しまっ…」 でも口をついてでたのは言葉にならないうめきにもにた声だけ…… 「これらの落書きは今日の午前、授業時間中に書かれたものだそうだ。多分、犯人は『気分が悪い』などと口実を設けて一時間程授業を抜け出したのだろう」 ぐぐ、マズイ、マズイマズイマズイマズイマズイマズイッッッ!! このままではこの悪辣で狡猾で愚劣なインキン男の謀略で私は犯人に仕立て上げられてしまうわっ! 元はといえばあたしの白井クンに無理矢理告白させたあげくズタボロに傷つけたアンタ達が悪いんでしょうがっ、それが何よ何よなによッ! アタシだけ悪者にしようとしてっ、そーは行かないわ、考えるのよ稲葉瑞樹、このピンチから抜け出す起死回生の策を!ってなによこのシリアルキラー男、何時のまにあたしに拳銃なんか突きつけてるのよ?撃つのね?その銃口にびぃうびゅーって光のつぶつぶが集まって灼熱の光芒がアタシの脳髄を穿つのね?その後首の吹っ飛んだあたしの若くてぴちぴちした小柄だけどばいーんな死体をその汚らしい野獣の様な(以下自主規制) 生命の危機に瀕した瞬間、その極限状態はあたしの脳裏にあるアイデアを告げた。 これは、大逆転のチャンスよ! あたしは形の良い唇を不敵に持上げゆっくりと言葉を紡ぎだした。 「ええ、そうよ、あたしは確かに午前中、気分が悪いって言って授業を抜け出させて貰ったわ」 「ぬう、やはり」 千鳥かなめの使い魔はあたしの額に銃口をむけたまま核心の声をあげる。でもここで負けを認めたわけじゃあ無い。 「勘違いしないで、あたしは気分が悪くなるといつも男子トイレの空気を吸いにくるの……そして便器に溜まっている水をすすり便器のヨゴレを綺麗に舐めとるの……その時にこの落書きを見付けたのよ」 「な、に?」 一瞬たじろぐ千鳥かなめの使い魔。あたしの完璧な理論に自らの推理を覆されたのが堪えたのか銃口が額からそれる。もう一息ね。ふふ 「そうよ、私は男子トイレの便器にこびりついた排泄物と尿垢に繁殖した雑菌の臭いが無いと生きてはいけないの!だから授業中に抜け出して男子トイレに忍び込んでも全然怪しくなんか無いわっ!そーよ私は無実なのよっさあ、もう良いでしょ?帰らせてもらうわよっ」 目を点にして馬鹿みたいな顔で突っ立ってる千鳥かなめと使い魔。 勝った! 何度も危険な橋をくぐり抜けたけどなんとか無事に切り抜けたわ…… その時、二人の後で崩れていた白井クンが感極まった様に涙を流し、あたしに飛びついてきた。 「ミズキィィィィィィ!ゴメン、俺、お前の事ちゃんと解ってなかったよォォォォ」 「うわっ臭い、ちょ、ちょっと、話してよウヲエッ!」 白井クン、もとい吐き気をもよおす白井の馬鹿があたしに抱きついてなんだかヌルヌルする汚らしいほっぺたをすりつけてきた。 「お前ってさあ、いっつもチーズみたいな発酵した様な匂いさせててなんかヤだったんだけどさっき相良に便器に突っ込まれたとき俺、解ったんだ!俺にはお前しかいないって」 「な、な、な何よそれぇぇぇぇぇぇ!?」 なんだこのド変態は!?便所の水をのんであたしに惚れなおしたぁ!?どーいう意味よコラッ 「ちょちょちょっとそこの二人っふぅたぁりぃー!汚い物を見るような目で出ていこうとしないで助けなさいよ、っていうか助けろ!この人でなしぃーーー!!!」 「さあミズキ、恥ずかしがることは無い、二人でこの便所を思う存分堪能しよう!」 「ひ、ぎひぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 何処の学校にも七不思議と呼ばれるものが有る。 ここ東京都多摩区調布市にある都立陣代高校も例外では無い。 その不思議はとてもとても優しい愛の不思議。 そう、愛さえ有れば人はどんな障害でも切り抜けられる。 貴方の学校の七不思議はいったいどんなものですか? |