2002年6月09日(更新日時は2006年6月24日)
「もしも、ピンクのテロリストな転校生がやってきたら」
 キーン、コーン、カーン、コーン
 キーン、コーン、カーン、コーン
 
 某月某日、陣代高校2年4組。
 物語はいつもと同じようにいつもの場所で始まろうとしていた。
 ガラリと教室を開けて入ってきたのは年齢相応な色気が欠落した以外、これといって目に付く物が無い女性教諭――担任の神楽坂恵里だった

「きりーっ、礼!」
 日直の張り上げる声に従いクラスメートの一同が立ち上がり礼をする
「着席!」
 がたがたと椅子を鳴らしながら席に着く一同。
「何かさきほど不快な事を言われたような……? それはさておき皆さんおはようございます。全員、席に席に着きましたね? コホン。えー、では今日から皆さんと共に学ぶ新しい仲間を紹介いたします。さっどうぞ」
 神楽坂教諭が教室の入り口に向かって呼びかける。
 ガラリと言う音に再び開けられる入り口。
 中に入ってきたのはピンク色の髪を……

 ぱぱぱん! パパン!

「ああっ相良くんが転校生を射殺しちゃった!?」
 転校生が教室に入ってくると同時に立ち上がり、腰のホルスターから自動拳銃を取り出し5連射。
 この間僅か一秒――むっつり顔にざんばら髪の少年、相良宗介だった。
「もう、宗介! ダメでしょ教室を汚しちゃ」
 何故か爽やかな笑みを浮かべつつ千鳥かなめは宗介の耳を軽く引っ張る。
「しかしテロリストは生かしてはおけない」
 さらに銃撃を加える宗介
「ツッコミ軽っ!? てか突っ込むとこそこなんだ?」
 常盤恭子が尋ねる。
 その間も宗介は倒れた転校生に9ミリパラベラム弾をガン=カタっぽいポーズで次々と撃ちこんでいた。
「ルルル〜あれは〜ザフトの〜艦だ〜♪ってかオーブ軍に盗まれてるやん!? このキョシヌケェ〜ラララ♪」
 しかも珍しい事に自作の歌まで口ずさんでいた。
 さらに言えば下手である。
 ついでに言えばいつものむっつり顔のままなので不気味である。
 弾倉内の弾を全弾叩き込み、スライドがガチンと後退した位置でロックされると素早くロングマガジンに入れ替えスライドロックを解除した。
 スライド側面に設置されたスイッチを操作し今度はフルオートで銃弾を叩き込む。
「あっ、相良くんの銃がいつもの19じゃなくて18Cになってる!?」
 どうでもいいことを突っ込む風間。
「テロリストはー国際社会のダニ〜♪人生の落伍者〜♪」
 相変わらず超ノリノリで銃弾を転校生に叩き込む宗介。
 時々転校生の額の髪飾り(通称カズノコ)に弾丸が当たり、跳弾が横で泡吹いて倒れている神楽坂教諭の鼻先をかすめたりもした。 
「うわっ、ピンクの汁がこっちに流れてきた……キモッ。ちょっとソースケっなんとかしなさいよ!」
「てかこれ本当に転校生なのか? うわぷっ変な匂いがこっちにも」
 転校生はびくん、びくんっと痙攣し傷口から触手を生やし生徒たちににじり寄ってきた。
「うわーくせー」
「ひー」
 もはや転校生とかテロリストを通り越して害悪なラク……もとい転校生。
「あのう……」
 阿鼻叫喚の坩堝と化した教室の中で、遠慮がちに宗介へ尋ねる声がした。
「む、美樹原か。どうした?君の教室は2−4では無いはずだが?」
「いえ、なんだか私の人権が踏みにじられてる気がして……」
「考えすぎだ美樹原。君の人権は保護されている、いや、保護されまくってると言っていい。中の人には罪が無い俺も君も売国奴などではない変な作品に出演もしてなければ何も聞いたり見たり知ったりしていない。いいか? では自分のクラスへ速やかに戻るんだ」
 宗介は少女――美樹原蓮の足に絡み付こうとしたピンクの触手を撃ち抜いてそううながした。
「で〜す〜わ〜わ〜た〜く〜し〜で〜す〜わ〜」
 謎の奇声を張り上げながらにじりよる、えーと何だろ? 嫌な生物?
 
 謎の嫌生物は増殖と腐敗を繰り返し汚液と腐臭を撒き散らしながら床をのた打ち回っていた。
「で、どーすんのよこの有様は?」
「確かにキリが無いな。最後の手段を使うか……アーバレストッ!!」
 宗介が右手を高々と上げ、その指をぱちんと鳴らすとどこからともなく(ECSを不可視モードにして隠れてた)アーバレストが現れた。
 アーバレストは今にもオノDを取り込んで吸収しようとしていた転校生を指で引き剥がすと校庭に放り投げ57mm散弾砲をセミオートで叩き込んだ。

(続……きません)


2002年6月08日(更新日時は2005年10月21日)
「フルメタTSR終了」
 パソコンが長く入院しておりましてようやく更新再開となりました。
 いやー、終わっちゃいましたねフルメタTSR。
 懊悩する相良宗介を延々と描写しつつ、「解り易い悪役」ゲイツ大佐の怪演が光っていました。
 彼が居なかったら途中で飽きちゃった人も居るんではないでしょうか?
 やはり時代はモミアゲであり、某種死にでてきたユ○ナ氏やバルト○ェルド氏はモミアゲっぷりを見習って欲しいものです。
 某種死といえばやはりガンダムと言う名を関した神話だったのではないでしょうか?
 絶対唯一の真理である神が存在し、その神を全肯定するため貶められるべき悪魔が存在し、悪魔は神に決して勝つ事の無い出来レースを演じます。
 神話であるからして無辜の民の生き死になど神の視点から見れば無いも同然であり、例え何百人死のうと神話の大勢にはまったく無意味です。
 ガンダムSEEDDESTINYにおいて、人とは存在価値の無いものであり、当然ながら民意などというものは神か悪魔の都合であっちこっちに流れます。
 つまりその他大勢の人々は本当にその他大勢の人々で自我を持つことを許されていないのです。

 案の定、当初危惧した通り思想的に中立を保つ義理の無いアニメ雑誌はこぞって主人公陣営の書き散らし、前作の主人公が前面に出てくるとこれまた手のひらを返したようにこの暴力クソ野郎を賛美する。
 もはやアニメ情報誌でなく戦時のプロパガンダと化した情報操作と捏造の山。

 まあ、アニメで現実の戦争を語るのに作り手が思想洗脳を意図してちゃ駄目でしょうな。

 ぶっちゃけ、ゲイツの様に解り易い誰が見ても悪役然としたキャラを敵に据えたほうが良かったかもしれません。

 そんな私ですが、スパロボJをプレーするとき極力SEEDの連中と行動を共にしないルートを選んでます。

2002年6月07日(もはや実際の日付がどうとか関係なくなってる2005年9月7日)
「スパロボJ発売……」

はい、みなさん今日は。
テレサ・テスタロッサです。
今日はみなさんにとてもとても悲しいお知らせが有ります。
敵の流した欺瞞情報であると思いたいのですが残念ながら情報の信憑性は高そうです……



テッサ:タイトルはスーパーロボット大戦Jゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売、どうもガセネタ臭がプンプンしますが9月発売予定だそうです。
 参戦作品は「機動戦士ガンダムSEED」「機動武闘伝Gガンダム」「マジンカイザー」「マジンカイザー 死闘!暗黒大将軍」「超電磁ロボ コンバトラーV」「超電磁マシーン ボルテスV」「超獣機神ダンクーガ」「蒼き流星SPTレイズナー」「機動戦艦ナデシコ」「ブレンパワード」「冥王計画ゼオライマー」「宇宙の騎士 テッカマンブレード」「フルメタルパニック!」
「フルメタルパニック? ふもっふ」

クルーゾー:……大佐殿質問があります。

テッサ:許可します。

クルーゾー一作品、我々が絶対に打ち滅ぼすべきテロリスト礼賛アニメが混じっているような気がするのですが、何かの間違いでは?

テッサ:同じ陣営だからといって無理に仲良くする必要は無いのですよ?
 知人に聞いた話で恐縮ですが、某自動車会社なんかですとディーラー内で「営業と整備と事務が不倶戴天の敵」などという現実も存在しますし(一緒のテーブルでメシ食うだけでも許されないそうです)
 医務室の引き出しが半開きになって拳銃が入ってて捕虜を撃ち殺そうとしても処罰されないという事ですので、事故に見せかけて全員毒殺するくらいは軽く許されるでしょう。

マオ:あんたたち本気で嫌ってるのね……

宗介:美樹原が「ピンクは駄目です、あれだけは駄目です」とかブツブツ呟きながら長ドスを研いでいるのですが・・・

テッサ:あれは美樹原家に代々伝わる「楽々スッパリ丸」と言う銘の白鞘の妖刀でしてですね。
一本気な堅物で知られた先代の組長、すなわち美樹原さんのお爺様が街中にはびこる破綻した風体で髪をピンクに染めた若者の乱行を憂い、名の有る鍛冶師に鍛え上げさせた業物でして、取りあえずピンク色の髪をしている変態は問答無用一刀両断にしてしまうそうです。

宗介:詳しいですね。さすがは大佐殿です。

テッサ:先ほど美樹原さんのお父上に伺いましたなんでも「偽天然の養殖電波女に慈悲は無用!」とおっしゃってましたよ。
サガラさんもカッシュさんとお話しするのは結構ですがジュールさんと親しくすると軍法会議にかけちゃいますよ? 私は若造だからって罪を許したりはしません。兵士の犯した罪に年齢は関係ありません! そもそも徴兵で兵役についたのではなく自ら望んで戦場に立ったのでしょう?

宗介;肯定です。大佐殿。信念を胸にしたものがその場の雰囲気で心変わりをするなどもっての外、カ行の発音も満足にできない奴は信頼に値しません。

テッサ:結構です。私も軍艦盗み出しておきながら争う気はないだのコックピットを外せとかいってミサイル発射させる真性狂人と一緒に仕事する気は有りませんから。



(続く……かも?)

2002年6月06日(もはや実際の日付がどうとか関係なくなってる2005年7月21日)
「TSR始動!!」
 と言う訳で皆さんお久しぶり。
 ちょっと本気で精神を病んでしまいしばらく更新を停止しておりました華比原杜松三郎です。
 せっかく、フルメタル・パニック!もセカンドレイドに突入したわけですし、特設ページを作って毎週更新していけたらなーと思っております。
 とは言え、当店のやる事ですから皆さんの視聴したフルメタと激しく内容が食い違っていたり、何故だか良く解んないけどガンダム種デス某有名アニメシリーズの最新作の見るに耐えない悪口雑言が撒き散らされてたりするかも知れませんが・・・とりあえず気にしないように御願いいたします。

フルメタル・パニック! THE Second Raid 特設ページへ



2002年6月05日(とうとう日付が遅れに遅れて実際は2004年1月1日)
「シンシュンシャンションショウ」
「宗介……起きるんだ宗介ッ!」
「何者だ!?」
 闇の中に瞬く火花、そして二発の銃声。
 夜の帳の落ちたマンションの一室、突如としてその静寂は破られた。
「イッテえな、いきなり9ミリパラ撃ち込む奴が有るか」
「馬鹿な?至近距離から間違いなく頭部に当たったはず」
 宗介は目の前にたたずむ影に銃口を向けたまま部屋の明かりをつける。
 すると銃口の先に居たのは黄色に茶色のまだら模様の犬だかクマだか解らない変なきぐるみ。
「貴様、そのスーツは俺の物だ何時の間に身に着けた?
「おいおい、俺の物とは随分な言い草だな。無理やり遊園地から誘拐してきたくせに」
 そういうと変な着ぐるみ――ボン太くんは宗介に背を向けた。
「どういう……事だ?」
 ボン太くんの背中にあるファスナーは下ろされ、中にはスーツを駆動させる装置類。
 つまりは、誰も中に入っていなかった。
「そういつもいつも俺様だってふもふも愛想ふりまいてられるかってーの」
 そういうとボン太くんの身長が少し縮んだ。
 どうやら、座ったつもりらしい。
「おい」
 ボン太くんがおもむろに右手を上げる
「な、なんだ?」
「なんだじゃねーよ、普通指をこうやったら煙草だろ? 下っ端のクセに気が利かねえな」
「指???」
 ボン太くんの指が普段と変わったようには見えない、そもそもこの腕のどこから指でどこからが手の甲でどこからが腕なのか宗介には判断がつかなかった。
(それよりもこいつに指なんかあるんだろうか?)
 疑問に思いはしたが宗介に逆らう度胸は無かった。
 装備の中から蛇避け用に買ってあった缶ピースを取り出すと封を開けて一本ボン太くんの指に持たせた。
 どこがどう指かわからなかったので凄く苦労した。
「あのな。煙草だけ出してどうするんだ煙草つったら次は火だろ? 火!」
「ははっただいま」
 火のつけられた煙草を吸って、ふーと紫煙を吐くボン太くん。
「あのよ。前々からお前に言おうと思ってたんだが……お前たまには美少女にも俺を着せろよ」
 ボン太くんはじゅうと宗介のオデコに煙草で根性焼きを入れた。
「ぬおっ!?」
「大体オメーは火薬くせーんだよ。おかげで俺様の中にまで匂いが染み付いちまったじぇねーか。たまにはしゅしゅっとファブリー○しろ、日光消毒も忘れんな。カビが生えたら困るのはお前自身だろ?解ってんのか? ああ?」
「は……善処します」
「いや、それは大した問題じゃねーんだよ。美少女だ、美少女。美少女に俺を装着させろ、そして芳しい乙女の汗を俺様に染み込ませるんだ!!」
(……変態め)
「何か考えたか?コラ」
「滅相も有りません! サー」
 ボン太くんに回転弾倉式のグレネードランチャーを突きつけられた宗介は慌てて敬礼をする。
「で、では千鳥に頼んで装着して貰う事に」
「却下だ、ばいんばいんのきゅは好みじゃない」
「で、では常盤恭子に頼んで見ます」
「ふーむ、恭子ちゃんはモロ好みだがああいう娘は2年もすればぐらまぁに育ってしまいそうな気がする……出来れば長くご愛用いただきたいからな」
 つまらん事を真剣に悩むボン太くんであった。
「おう、そうだ。貴様の担任の神楽坂先生はどうだ? あの年齢であのロリロリ体型なら当分は心配要らん。それに化粧を落とすと結構童顔そうだ」
 さりげなく相当酷いことを言う。
「神楽坂先生ですか…?」
 ボン太くんは部屋からピアノ線を探し出すと宗介に手渡した。
「おう、おめえ。水星のタマ取って来いや」
「んな!?」
「奴を仕留めてえりりんを攫って来い。スクール水着を着せてな」
「え、え、えりりんとは?」
「あー、ウダウダ抜かすなこの犬! 犬は犬らしくご主人さまのいう事聞いてりゃあいいんだよ。さっさと行けぇ!」
「ウルズ7出撃します!!!」
 ボン太くんが両手で構えたバルカンの銃口から身を隠すように宗介は飛び出していった。



「はっ!?」
 ベッドの下で寝ていた宗介は思わず跳ね起きた際にベッドに頭を打ち付けた。
「……! ……!?」
 声も上げられずのたうつ宗介は転げまわるうちに部屋の片隅に鎮座しているボン太くんと目が合った。
「むう」



「あけましておめでとー、ソースケ! おせち料理もって来てやったわよ。ありがたく頂戴しなさい、はっはっは」
 晴れ着姿で不自然な程に気合の入った豪華なおせち料理を持ってきたかなめを宗介はやつれた顔で出迎えた。
「おめでとう、千鳥……本年もよろしく」
「?まあいいわ上がらせてもらうわよー」
 部屋に上がったかなめはピアノ線でギリギリと縛りあげられて壁にしっかり固定されたボン太くんが目に入った。
「ナニコレ?」
「いかん、千鳥危険だ。それに近づくな」
「ふーん」


2002年6月04日(2003年10月12日)
「マッチ売りの少女」
「マッチはいりませんか? マッチはいりませんかー?」
 むかしむかしのことです。
 ある寒い日の事のです。
「マッチを。マッチをかってください」
 少女が街を行く人々に向けてマッチを売っていました。
「おねがいです。どなたかマッチを……」
 少女の呼びかけにも人々は気まずそうに歩を早めるだけで耳をかそうとはしません。
「だれかWBCにほんJフェザーきゅうタイトルマッチのチケットかいませんかー?」

 ダフ屋は違法行為です。

「はぁ……てにあせにぎるせいきのいっせんのチケットなのにいちまいもうれません」
 少女はかじかんだ両手にはぁっと息を吹きかけてつぶやきました。
「あの、もし。みきはらさん?」
 タイトルマッチ売りの少女――美樹原蓮を呼び止める声。
「はい、おかいあげありがとうございま……あらあらあなたはりゅうがくせいのテスタロッサさん」
 かけられた声に蓮が振り向くとそこにはみすぼらしい格好のテレサ・テスタロッサが立っていました。
「あのー、しつれいですがここはちょうふなのでチケットうるならこうらくえんホールまでいかないと」
 申しわけ無さそうにテッサは言いました。
「ちょうふしじんだいではタイトルマッチのチケットうれませんか?」
「はい、たぶん。すいどうばしまでいったほうがいいとおもうのですが」
「えーと、ここからすいどうばしまでだとのりかえは……」
「りゅうがくせいなのできかれてもこまります」
「それもそうですね。ではわたしはばしょをかえます」

 ぺこり。
 ごっちん。

 折り目正しくふたりはおじぎして頭突きをかまし合いました。
「いたたた。それではわたしはしつれいしますね」
 そういってテッサは去っていこうとして何も無いところで再度こけました。
「うう、またあたまをうってしまいました」
 カウンターパンチを貰ったボクサーの様によろよろと立ち上がるとテッサは懐から変に頭の部分が大きいマッチを取り出しました。
「マッチ。マッチはいりませんかー?」
 どうやら本当にマッチを売っていたのは彼女だったようです。
「さいこうきゅうのぐんようぼうすいマッチはいりませんか? みずにぬれてもひがつくこうせいのうマッチです。」
 調布駅前で流暢な日本語を喋る外国人の美少女が悲痛な表情でなんだか微妙に怪しいマッチを路上販売している姿というのは警戒するに充分なものが有ったのでしょう。
 助けになってあげたいという気持ちとちょっと怖いという気持ちと多分ストリートパフォーマンスだろうという推測がない交ぜになって皆一様に彼女へ近づくことを躊躇わせました。
「ほら、ここ。ここみてください!マッチのさきがおおきいでしょ? ふつうのマッチよりちょうじかんねんしょうをけいぞくしてなおかつ……イタッ!?」
 道行く人に駆け寄ってマッチを売り込もうとしたテッサは何にも無い場所で転んでしまいました。
 それはもう盛大に。
 脳天からアスファルトへ垂直に『転んだ』テッサを中心にしてアスファルトが赤黒い染みに侵食されていきました。
 それまで遠巻きにテッサの痴態(?)を見物していた市民は突然の出来事に慌てて逃げ出しました。
「……マッチをぉぉ。おねがいですまっち……まっちかってえええええ」
 テスタロッサの名にふさわしくアッシュブロンドの髪を赤く染めたテッサが転んで逃げ遅れた同じ年頃の少女に這いよりました。
「ひ、い、いやあ……」
 腰が抜けて立ち上がれないのかしりもちをついたまま後ずさりする少女。
「マッチ……マッチマッチまっちまちまちまちままままままMAMAMA」
 しゅうしゅうと活火山の様な血煙を脳天から吹き上げてにじりよるテッサですが、転んだ少女にあと一息でたどり着けると言うところで突如、空中に舞い上がり三回転して地面にキスしました。
 どうやら這いよりながら転んだのでしょう。器用な娘です。
 一部始終を間近で見てしまった少女は心の大事なところがどうにかなってしまったのか、けたたましい哂い声を発しながらしりもちをついた姿勢で信じられないほど素早く後退し、どこかへ消えていきました。


 しばらくの後。

「はあ……いっぽんもうれません。わたしにはしょうさいがないのでしょうか?」
 それ以前の問題だと思います。
「うう、りゅうがくのためにとうきょうにきたまではよかったもののカナメさんがサガラさんのいえにおしかけにょうぼうとしてすみついてもんどうむようでおいだされたあげく、どんなてをつかったのかにしたいへいようせんたいのせんたいちょうにしゅうにん。それだけならともかくおさいふとパスポートをスられ、残されたのはたまたまポケットにはいっていたこのマッチのみ」
 また知らないうちに悲惨な展開が進行していたようです。
「このままマッチがうれないとわたしはさむさをしのぐやどもなくここでこごえしぬのですね……」
 それより先に出血多量か脳挫傷で死を迎える可能性が高いです。
「あ、ゆきが……よわりめにたたりめとはこのことですしくしくしく」
 慌てて閉店した本屋の軒先に逃れたテッサは降り積もる雪を見つめカタカタと小さな肩を震わせました。
「ううう、みじめです。おまけにおなかもぺこぺこです。とうぜんさむいですぶえええっくしょーい」
 可憐な容姿に似つかわしく無い豪快なくしゃみをして見事な洟水を垂らしました。
「と、とりあえずうりもののマッチですがこれをつかってだんをとりましょうぶるぶる」
 そう言ってテッサがマッチに火をつけると暖かな炎がゆらゆらと立ち上りました。
 すると不思議なことにマッチの炎から淡い光が漏れ出しなにやら映像が浮かび上がりました。



「おお、たいさどの。こんなにふるえて……ささ、そとはさむかったでしょう」
 何故かカリーニンが光の中から現れテッサを光の中に招き入れました。
「あ、ありがとうございますカリーニンさん。わたし、わたし。もうミスリルのみんなにみすてられちゃったとばかり。えぐっ。ひっくあなただけです」
「だいじょうぶですよ。わたしはたいさどののみかたです。ちょうどおくではボルシチがにえたぎっています。ごぞうろっぷがやけただれるほどあたたまってください」
 そういってカリーニンが寸胴鍋からおたまに掬い取ったボルシチと呼称される物質は何が楽しいのかボコボコとあぶくを弾けさせながら熱気を噴いていました。
「な、なんかボルシチというにはふしぜんにあかいというかようこうろでとけたてつみたいにひかりをはなってるんですが」
 時々ぼっ、ぼっ。と炎も吹き上げています。
「はい、ごぞんじのとおりわたしのそこくはえいきゅうとうどにとざされなつといえどもぜったいれいどをいじするごっかんのち」
 大嘘です。
「わたしがかていもかえりみずにんむにあけくれしんしんともにひえきってかえるとつまはなにもいわずだまってこのボルシチをだしてくれました……あ、おたまがねつでとけてしまいました」
 柄の部分を残して溶け落ちたおたまを手にカリーニンは遠い目をして語っています。
「そういうわけでたいさどの、えんりょなさらずこの『AK-ボルシチ』をこころゆくまでおなかいっぱい……」
 ちなみにAKとは突撃小銃の事です。


 ばしっ!
「はぁ、はぁあぶないところでした」
 テッサは危ういところでマッチを地面に叩きつけ肩で大きく息をしました。
「とんでもない、まぼろしをみてしまいました。もっとかていてきなしあわせというかそーいうのを見ましょう」
 そう言ってテッサは新しいマッチをすりました。



「パトラッシロ……わたしはもうつかれちゃいました」
 大きな『猫』と共にどこかの古びた教会の礼拝堂でで力尽きようとしていました。

 ぐぅーっ。

 どこからともなく千鳥かなめの腹の虫のような音が聞こえます。
 それは地の底から湧き上がって来る地獄の番犬が唸り声に似ていました。「パトラッシロさん……もしかするとわたしがちからつきたあとでたべちゃおうとかかんがえていません?」
「ぐるるん」
 非難がましい目で見つめるテッサから『猫』は目を逸らせました。
「あっ、いまむこうむくフリしてしたなめずりしましたね!? そーはいきませんよっ」
「ぐおっ!」
 図々しくも抗議の声を上げる『猫』はそれならとばかりにテッサへ踊りかかりました。
「あ、じつりょくこうしにでましたね? はんしんゆうしょうしたからっていいきになってるでしょ? メジャーのはひさんなせいせきのくせにっ」
 うなりをあげる『猫』の太っい前足の先に伸びる鋭い爪をテッサは紙一重で交わしました。
 いえ、かわすという表現は正確では有りません。
 『猫』の張り手に注意を向けた瞬間、全ての平衡感覚を失い空気抵抗すら感じさせない勢いで地面に激突したのです。
「ぐるん?」
 かわされるはずの無い一撃を回避されいぶかしげな声をあげる『猫』でしたが野生の本能から眼前で倒れているテッサに恐怖を感じたのか素早くトドメとばかりに噛み付こうとしました。
 しかし、テッサの平衡感覚の鈍さは物理法則を超えていました。
 『猫』の殺気を感知した瞬間、慌てた彼女は床に突っ伏した状態でまたも転び、『猫』のアゴに全身でアッパーカットをお見舞いしながら天井へと激突し、床と天井の間を数回激しくバウンドしながら『猫』に襲い掛かりました。
 高速で飛来する灰色の弾丸と化したテッサが直撃して意識を失う『猫』
 これこそ究極ドジッ娘萌え武術!
 ウソですが。

 そんな1人と一『匹』の愉快なやりとりを壁にかけられたルーベンス水星の「らぶらぶいおりん&えりりん」という世界中から幸せという幸せを吸い尽くした様なバカップルぶりを描いた、見るもの全てに嫉みとひがみを抱かせる名画がいちゃつきながら見下ろしていました。



「さてと、ラス1です!」
 何事も無かったかのようにマッチの燃えさしを雪の中に埋め込んだテッサは埋めた後をぐりぐりと踏みにじりながら最後に一本残ったマッチに火をつけました。



「ねえ、ソースケ?」
「なんだ?かなめ」
 甘ったるい声で尋ねるかなめに宗介は何故か苗字ではなくファーストネームで呼び返しました。
「うまれてくるこどものなまえ……もし、おんなのこだったら『テレサ』ってなづけようとおもうの」
「ふむ、テレサ?」
 二人はベッドの上で清潔なシーツに包まり仲睦まじく寄り添いながら話し合っていました。
 勿論、二人とも素っ裸で宗介はかなめに腕枕などしてやがります。
 相良宗介の分際で生意気です。
「うん、あたしたちのいちばんたいせつなおともだち……だった」
 過去形です。
「テレサ……そうか、かのじょか」
 忘却の彼方に追いやられていたようです。
「そう、かわいそうなテッサ。うまれてくるこどもにはあのこのぶんまでしあわせになってほしいの」
「そうだな。さちうすいみじかくひさんなじんせいをおくったかのじょのためにもしあわせになるぎむがある」
「ふふ、こんなときにまでまじめなんだから。ま・ず・はこどもをつくらないとね。ぱぁぱ」
 甘えた声を出したかなめは宗介の上にのしかかりました。
「りょうかいした。ちゅうたいきぼでこどもをせいさんしよう。たいりょくにはじしんがあるでは、いくぞ」
「ああん」



「……」
 既にマッチの火はテッサの指先まで迫り、じりじりと肌を焦がしました。
 皮膚の焦げる嫌な匂いが立ち上りますがテッサは肩を小刻みに震わせるだけで後は微動だにしません。

「……こんな」

 背後から漆黒のオーラの様なものが立ち上り、テッサの体から立ち上る膨大な熱量は手にしたマッチを一瞬で灰に代え、周囲の雪が熱気で溶かされていきました。

「こんな惨めな気持ちで死ねるかぁッッ!!」

 翌朝……
 雑踏の中に消えていくテッサを見かけたとの報告を最後に彼女の姿を見たものは誰も居ませんでしたとさ。
 

2002年6月03日(2003年9月24日)
「稲葉の白水着」
 むかしむかしあるところにそれはそれはとてつもなく悪賢く知謀と策略に長けた兎がいました。
 ある日のことです。
 兎は海の向こうにあるバイト先に行きたいと思っていましたが困ったことに移動手段が有りません。
 当初は泳いで渡る事も考えたのですがとてもかよわい女子高生が渡りきれる距離では有りません。
 考えた稲葉瑞樹は大声で海に向かって叫びました。
「おーい、さめー。もんどうむようでこっちにきなさーい。どこにいてもかんけいなく10びょういないにこなかったばあいはせかいじゅうにあんたのはずかしいかこないことないことねつぞうしてもうれつない9きおいでばらまくわよー。このほしにいばしょがなくなるのがいやならとっととこーい」
 相変わらず捻じ曲がった性格です。
「こら、サメ! なにぐずぐずしてんのよッ。いーわよそっちがそのきならこっちんもかんがえがあるわ! とりあえずてぢかなところでカナメにあんたのわるくちをメールしてやる!『山葵は鮫皮でおろすと辛くなる』っと。どーぉこのままどんどんわるくちをおくりまくるわよー」
 悪口か? それ。

「どうもコックのさめじまです」
「……」
「さめじまです」
「だれ?」
 悪口雑言を垂れ流していた稲葉瑞樹の前にぬっと現れたのはひょろりと背の高い男でした。
「わたくし、こうみえましてもさるこうきなおかたのもとでさめとしてはたらいておりますものでして」
 鮫島と名乗った男はコックではなく鮫として雇われているそうです。
 なるほど、良く見れば背中に三角形の妙な鰭を装備していますし鮫島本人がかもし出す雰囲気も人喰い鮫を彷彿とさせるものがあります。
「で、けっきょくなにものかのせつめいはないのね。マイナーキャラのクセに」
 呼び出しておいて酷い言い草です。
「で、わたしになにようですかおじょうさん」
「いやー、ちょっとこくどこうつうしょうからのいらいでこのかいいきでのさめのこうつうりょうをちょうさにきました。ごきょうりょくおねがいいたします」
 凄い嘘でした。
「ほう、それはそれはごくろうさまです」
「そういうわけでちょうさしますのでさめのひとはいちれつにならんじゃってください」
 鮫島さんがそんなに大勢居るわけが……と突っ込む者もここには居なかったのですが、そんな声を裏切るように鮫は増えました。
 それはそれはもう凄い数に。

「な、なななな!?」
「ホーッホッホ。どうりょうのわしおなどマトリックスよけするくらいですからねえ。おなじあるじにつかえるものとしてはこのくらいは……」
 一斉に同じ顔が誇らしげに応える鮫でした。
 しかし、よくよく考えると同じ職場の人間がどっかの救世主っぽい人外の動きをすれば同僚も人外っぽく……いや、波間を埋め尽くす同じ顔したあぶない目つきのおぢさんというのは既に人類の敵で侵略者で滅ぼしたり駆逐したりどっかの戦争馬鹿をけしかけて対消滅させたりとかそういう処置を施さないといけないのでは? と瑞樹は思いましたがとりあえず、化学反応を起こして変なガスとか放出してたくさんの人が死んだりして責任とらされたりしたら嫌だったので見送りました。
「さあ、えんりょなくえつらくのせかいにLet’Sふみふみ!」
「いや、その」
 あまりの恐怖に足がすくんで逃げられません。
 悲鳴を上げようと思ったがそれは声になりませんでした。
「うん? どうなさいました? ああ、なるほどハイヒールがないとこうかがはんげんしますね」
 絶対に違います。
「そういえばそのいしょうもなかなかそそるものがありますがすこし……やはりうさぎはうさぎらしくないと」
「ちょ、ちょっとなによわたしはこれからバイトが。いや、よらないでとりかこまないで、こらよるなってアタシにはもうれつにきょうぼうなさんにんのともだちがいるのよつうしょう『信号機三連星』つって超高速で突進する絶対不可避の殺人コンビネーションの『ジェットストリーム肩透かし』……」
 どさくさに紛れて友人の悪評を流す事は忘れない稲葉兎でした。



「ふむ、しおづけのほしにくか……」
 砂浜を歩いていたオオクニヌシノ宗介は眼前に転がるそれを見て呟きました
「だ・れ・がッ!? しおづけのほしにくなのよッッ!!」
 飛び起きておおくにぬしの宗介に掴みかかったのは何故か真っ赤なバニーススーツにハイヒールの稲葉兎でした。
「ちがうのか? おれはてっきりかわをはがれてあかはだかになったうさぎをそこにたおれているおとこがあらじおをすりこんでしおかぜにさらしたものとばかり」
 襟首を締め上げられた宗介が平然と指差した先にはボロ雑巾の様に朽ち果てた鮫が転がってきました。
「あそこでしにかけてるのはわたしがへんなてつぼうをじくにこうそくかいてんでかたっぱしからけとばしたどっかのりろーどっとっぽいにせえーじぇんとよ。そのときにうっかりあしをふみはずしてうみにおっこちてしおまみれになっちゃっただけ」
「なるほど」
 オオクニヌシノ宗介は仰向けに倒れている鮫の背中の下に安全ピンを抜いた手榴弾を仕掛けました。
「つーか、こんなはたんしたナリじゃバイトにいけないじゃないのせっかくしんちょうしたしろスクみずだったのに……」
「きみのバイトにケチをつけるきはないがいったいどこでなにをしてはたらいているのだ?」
「ざんねんだがきさまにしるけんりはない」
「……りょうかいしました。では」
 思わず勢いに負けて敬礼してしまった宗介でした。
「まてい、こんなかよわいびしょうじょをほうっておいてアンタそれでもにんげんなの!?」
「62点くらいか?」
「さりげなくさいてんするなっ、だいたいなによそのはんぱなせいせきはけんかうってるの? かわないわよ? あんたおこらせるとなにするかわかんないから」
 腕組みをしてヤな感じに真剣なまなざしで値踏みするオオクニヌシノ宗介に対して稲葉兎は偉そうなんだか気弱なんだか解らない態度を取りました。
 何しろものがものだけに兎の心臓なのです。
「そう、あれはおれがベリーズのくんれんキャンプにいたときのことだ。ひれつなテロリストがだいとうりょうのれいじょうをゆうかいしたことがあった。そこでくんれんちゅうの……」
「ぢぢいみたいなむかしがたりしない!まえからおもってたんだけどあんたなんていうかわかさがないのよ、わかさがっ。きずついたかおをスンナっ。いろいろときずつけられたのはこっちでしょ」
 自業自得とは言え一番ひどい目に会ってるのは鮫です。

「そういうわけであんたはまがりなりにもオオクニヌシノミコトなんだからそのせかなのふくろをかわいそうなわたしによこしなさい」
 そういって稲葉うさぎはオオクニヌシ宗介のかついでいた袋を奪い、中身をぶちまけるとその上で転げまわりました。
「いなばよ。ひじょうにいいにくいことなのだが」
「なによ(ごろごろ)」

「うるしのうえでころがるとかぶれるぞ」

「がまのほとちがうんかーい!?」
「うむ、からだじゅうにうるしをぬりたくるごうもんにつかおうとおもいさいしゅしてきたのだ」
 無理がありすぎます。
「か、あ、かゆい!? カユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイかーゆーいー」
 漆にかぶれて痒みにのたうちまわる稲葉兎を無感動に見下ろしていたオオクニヌシノ宗介は言いました。
「よくわからんががまのほにけはえこうかがあるなどというのはめいしんだ。むろんうるしにもそんなこうかはみとめられていない……ふむ、そうか。まだはえていないと。かわいそ」
 うに。
 とは発言出来ませんでした。
 ひらりと稲葉兎の右手が閃くと一瞬のフェイントを使って、貫き手が宗介の左目を襲いました。
 肩から先だけ、右腕の関節のスナップだけを使い超高速で放たれたノーモーションの突きでした。
 まともな……いえ、熟達した格闘家すら最初に彼女が起こしたフェイントに視線を奪われてその攻撃を回避することは出来なかったでしょう。
 威力を捨てて素早さのみを追求した攻撃では有りましたが鍛え様の無い眼球を狙うならば関係有りません。
 しかし。

「なにぃ!?」
 不可避の筈だった攻撃は三下のやられキャラっぽい稲葉兎の叫びとともに回避されました。
「なにをする。うるしのしるがつくではないか」
 平然と言い放つ宗介に対して、再度稲葉兎は電光石火の勢いで貫き手を放ちました。
「死なす! つーか殺す。このアタシのプライドを傷つけた責任は万死に値するわ! 動けなくなるまでつっついて動かなくなったらミリ単位で細かく割いて唐辛子マヨーネーズで和えてバイト先でお客さんに出してやるっ」
「きみはさいきんげんどうがびみょうにちどりににてきたな。もうすこしともだちをえらんだほうがいいぞ?」
 当人が居ないと思ってエライこといってますがそもそも稲葉兎には選り好みできるほどトモダチ居ません。

「くっ、なんてやつなのバイトさきでみにつけたわざがなにひとつつうようしないなんてっ」
「ほんとうにどこでバイトしているのだ?」
 びょ、びょっ、ぴやぁう。
 鋭く風を斬り裂く手刀を紙一重で宗介は見切りながら稲葉兎に問いかけました。
「がまのほはないがしろスクみずにかわるきゅうきょくのもえいしょうならよういできるぞ」
 ぴた。
 そんな擬音が聞こえるほどきゅうげきなスピードで稲葉兎の動きが停止しました。
 英語で言うとrabbit stopです。
 だからどうしたと訊かれても非ッ常ーに困りますが。
「もえ? もえもえもえ?」
 不気味な生物の様な声で尋ねる稲葉兎にオオクニヌシノ宗介は鷹揚に頷きました。
「こうていだ。ぎょうしょうののこりものだが、このそうびさえあればちまたにあふれるぼんびゃくのもえなどもののかずではない。どれほどきょうりょくなもえがたいきょしてせめこんできてもしゅんじにむりょくかできるぞ」
「よし、かった!しはらいは30ねんローンで」
 宗介がどこからともなく取り出した萌え装備を稲葉兎はひったくるといそいそと身に着けました。



 完 覚

 了 悟


「ふもっふ!」
 何故か仮面ライダー(V3)っぽいポーズを決める稲葉兎でしたがその姿は非常に決まっていてカッコイイです。

「いなばよ。うるしのしるにまみれたままスーツをきこむとゆちゃくしてぬげなくなるぞ」
 静かに言い放つオオクニヌシノ宗介でした。
「ふもも!?」
「おそかったか……かんぜんにどうかしてしまった」
 全然哀れみのこもっていない口調でつぶやくと、オオクニヌシノ宗介は稲葉兎の後ろに回りこれまたどこから取り出したのか溶接機で背中のチャックを溶接してしまいました。
「よし、にんむかんりょう。これからはきぐるみとしてあらたなじんせいをあゆむがいい。いきていくうえでさまざまなこんなんがまちうけているだろうがつよくいきるんだ」
 呆然とする元・稲葉兎に対してオオクニヌシノ宗介は棒読みでそう告げると颯爽と……いえ、脱兎の如くその場を立ち去りました。

 オオクニヌシノ宗介に第二の人生を賜ったボン太くんはそれなりに幸せに暮らしたそうな。

 了

2002年6月02日(本当は2003年9月07日なんだ)
「裏島宗介トゥ・ザ・ブルー」
 むかしむかしあるところに救いようもなく甲斐性無しの上、平和な社会での一般常識というものが完璧と形容して遜色が無いくらい致命的に欠損していたため、それはもう見る人の哀れみを誘うまでに劣悪な極貧暮らしを送って今まで生きながらえてきた相良宗介と言う駄目人間が住んでいました。
「しらないまにおれのしょうかいがひどくなっているではないか」

 ある日のことです。
 宗介は釣竿を手に砂浜を歩いていると前方でなにやら揉め事が起きているでは有りませんか。
「これこれこどもよ、カナメをいぢめてはいけないよ」
 宗介はおだやかに言うと抜く手も見せずに愛用の自動拳銃をホルスターから引き抜き、ダブルタップで命中し難い頭部や四肢を避けて胴体部分を狙い撃ちにしました。
「ナ、ナニヲスルキサマ!?」
 小柄な体にピッタリとフィットした銀色のスーツを来た子供(?) は胴体に宗介が空けた銃創から紫色の粘液を垂れ流しながら抗議しました。
「そのこえはレイスか? あいかわらずみごとなへんそうのようだがこんかいばかりはうかつだったな。ちどりにちょっかいをだすのはやめてもらおうか」
 宗介は相手が変な声だったので問答無用でミスリル情報部のスパイだと決め付けました。
「なーに、いってんのよソースケ! こいつうちゅうじんよ。ちきゅうをしんりゃくしにきたのよ アタシをさらってのうみそにちっぷをうめこんでべんりにつかおうとおもってたのよコイツっ」
「イイガカリダ!ワレワレハチキューヂンガオロカナセンソウヲクリカエシテイルノヲミカネテケイコクニ」

 再度、銃声が木霊しました。

「きさま、おれにたいするさいさんのいやがらせにあきたらずしごとにまでケチをつけるきか?」
 あまりミスリルの理念に対して理解が無い発言を宗介はしました。
「マ、マタウッタナ!? ナントイウヤバンナシュゾクナノダコノホシノチテキセイメイタイハ。トリイソギウチューレンゴーニホウコクセネバ」
 新たに胴体に開けられた穴からぶしぶしと紫色の液体を垂れ流しながら宇宙人は言いました。
 なんだかあまり一般的とは言えない二人の行動で地球が地球が大ピンチです。
「みごとなぼうだんせいのうだなしんがたのしょうげききゅうしゅうジェルか?」
「ソンナワケアルカー!! ウチューヂンヂャナケレバトックニシンデルワー」
「ソースケ、こいつらひどいのよ。アタシがおなかへったからうみにもぐってクジラとろうとしたら『クヂラハニンゲンノツギニカシコイドーブツナノデコロシテハイケナイ』とかいってインネンつけてきたのよっ。じぶんたちはたにんのぼくじょうにおしいってウシくっちゃうくせにっ」
 相変わらず豪快な食生活です。
「ちどり……うちゅうじんなどじつざいするわけがないだろう」
 哀れみのこもったいやにやさしいまなざしで宗介はかなめに微笑みかけました。
「……フツーのやつにそういうかおされたらドキドキしたりするとおもうんだけど、アンタのばあいなぜかそこはかとなーくみじめなきもちになるのよ。なぜかしら?」
 思いっきり失礼な事を言っている気がしますが家畜に哀れみを請うほど落ちぶれるのもどうかとは思います。
「むりもない、きみはしろうとだからな」
 家畜のプロってのも情け無いと思います。
「キサマラッ、ヒトノハナシヲキケッ! ソンナコトデ1999ネン7ノツキニオリテクルキョウフノダイオウカラコノホシヲマモレルトオモッテイルノカ? モンダイハチキューダケデハスマナイカモシレヌノダゾ」
 しらない間にどんどん事態は深刻化していきます。
「しつこいぞ、レイス。ミスリルのじょうほうぶいんともあろうものがミスリルのじゅうようなしゅうにゅうげんであるクジラのみつりょうをひはんするな。じょうそうぶにほうこくするぞ。」
 ミスリルではそのような副業は行っていません。
「イチバンジュウヨウナワダイヲスルースルナッ、スベテガヲワッテカラデハヲソイノダ。イマコソチキュージンハウチュウノアイニメザメヨリコウイノソンザイヘトシンカ」

 ばらららららッ!!

 宗介はどこから取り出したのかサブマシンガンをフルオートで宇宙人に全弾叩き込みました。

「ざんねんだったな。いぜんのおれならだまされたかもしれんが、さいきんではねんいりにじょうほうしゅうしゅうしてちゃんといっぱんのしゃかいになじんできているのだ」
 しゅうしゅうと煙を上げながら再生していく宇宙人に向かって宗介はえっへんと誇らしげに胸を張りました。
「ホントウノホントウニウチュージンダ!」

「そうか。ならうちゅうからやってきたというなら……ミントたんを出せ」

「え”?」
「はい?」
 なに?

「ミントたんだ。ミントたんをようきゅうする!」

「え”?」
「はい?」
 なに?

「ほらみろ、やはりうそだったではないか。うちゅうからきたというならムーンエンジェルたいのはず」
 ギャラクシー・エンジェルですか?



 ……どうやらこの馬鹿は最近のドラゴンマガジンからしか一般常識を仕入れていないみたいです。
「ちゃんとぶんこもかってるぞ」
 多少身勝手な願望を交え宇宙人の存在を否定した宗介は懐からぎざぎざのついた凶悪な反りのある登山用ナイフを取り出し宇宙人の頬に当てました。

「ミントたんがいないならヴァニラたんでもきょかする」

「どっちかというとうちゅうじんよりソースケのほうがニセモノぽいんだけど」
「おおきなおせわだ」
「イタイイタイイタイイタイ」
 宗介が振り返った拍子に悪者っぽいブレード形状のナイフが刺さりました。
「ヲノレ!! ヲノレヲノレウォノレェェェー。コレイジョウノランボウロウゼキモハヤカンベンナラヌ! カクナルウエワチキューニロウカガスヲサンプシテコノホシニイキトシイケルモノスベテヨボヨボデフガフガノヂィサンバァサンニシテクレルワッ」
 何故か時代がかった台詞で叫ぶ宇宙人ですが、よく我慢したほうだと思います。
「うむ、いいポイントにとんだ」
「たくさんつってね。テンプラにしてあげるから」
「たのしみだ」
 しかし、喚き立てる宇宙人を無視して宗介とかなめは仲良く投げ釣りを楽しみました。



「ムシスルナー!」
 涙を拭いて走り去っていく宇宙人を無視して釣り糸を海面に放り、二人は並んで海辺にたたずんだ。
それはわずか三〇分でけっきょく一匹の魚もつれず、さして変わった出来事もなかったが――

地球最期の30分を2人はたっぷりと楽しんだ。

〔了〕

2002年6月01日(本当は2003年8月26日なんだ。)
「舌斬りかなめ」
 むかしむかしあるところに甲斐性無しの上、平和な社会での一般常識というものが致命的と形容しても良いぐらい著しく欠損していたため、それはもう目も当てられないほど悲惨な貧乏暮らしを送って糊口を凌いでいた相良宗介と言う若者が住んでいました。
「またこれか、じじつとはいえふんがいするぞ」

 ある日のことです。
 いつものように宗介は、なんとなく挙動不審な通行人に某国の工作員だと疑惑のまなざしを向け、鉛筆を指と指の間に挟みこんで力いっぱい握り締めるという拷問を仕掛けて自白を迫ったり、たまたまその日は使い捨てのコンタクトレンズにしていた風間君を地球侵略に来た悪い宇宙人だと決めつけヤクザでもしないような酷い蹴りで痛めつけ、無理やり「私はアルファ・ケンタウリからやってきた異星人です」と念書をしたためさせた後、衣服を剥ぎ取り「此者種割也」と体に落書きして毎日放送の前に吊るしたりして自分では世界を守ったつもりになっていました。

 一銭の儲けにもならない仕事を終え、宗介が自宅に戻ると何故かそこでは千鳥かなめが桶に入っていた洗濯糊をむさぼり喰っていました。
「あいかわらずしんじられないようなこうどうをとるな。きみは」
 むかしの洗濯糊は現在のようにポリビニルアルコールやポリ酢酸ビニルといった薬品ではなく、米などからでんぷんを取り出して糊を作っていたので食べられるのです。
「こ、これはほんろできごころれっ、チョットさいきんダイエットしてたもんでおなかがへってふい」
 くちにたっぷりと糊を頬張ったまましゃべったのでどろりと洗濯糊が口からはみ出しました。
 なんだかとってもえっちなこうけいです。
「だいらいなんれあんたのうちにせんたくのりなんかあるのよ。のりづけしないといけないようなふくをもっれるの?」

 どろどろどろ。

 口の端から洗濯糊の白濁した粘液を垂れ流しながらかなめは問いました。
「それについてはこのはなしのぼうとうをさんしょうしてみろ」
「えーと、むかしむかしかいしょうなしのうえ〜うんぬんってやつ?」
「そうだそこに『糊口を凌いで』といういちぶんがあるだろう?」
「アンタもくっとったんかーい!?」
 そもそも糊を喰うという意味では有りません。
「とにもかくにもげんりょうするならこうかてきなほうほうがあるぞ?」
「ほんと? やるやる」
「これはいぜんおれのいたぶたいでとらえたほりょがあまりにもはんこうてきだったためにつかったほうほうなのだが」
「え”??」



「きみのしたを……せつじょするしかない」



「な”、な、なにをっ!? ねぇちょっとソースケ。じょうだんよね? ねっ、ねっ! や、やめてよ。そりゃ、最近お腹のたるみが気に……って何言わせんのよっ!?」
「せりふはかんじきんしだ」
 意味不明な事を事をつぶやきながら宗介はかなめににじり寄りました。
 怖いです。
 いつもなら宗介が反社会的な言動や行動を起したらハリセンで動かなくなるまで折檻するかなめもいつに無くおどろおどろしい雰囲気をかもし出して這い寄る宗介に体がすくみ上がってなす術が有りません。
「ねえ、ホントに辞めてよ? 舌だよ? 切っちゃったら死んじゃうじゃない?」
「もんだいない。すぐまたはえる」
 いくらかなめでも生えてこないと思います。
「ひ、平田のb……」

 ぢょっきん☆



 こうして……
「あー、ひろいめにあったわ」
 シリアルキラーのような笑みを浮かべた宗介に下をちょん斬られたかなめは文字通り舌っ足らずな声でつぶやきました。
「アンニャロうぇえ、こんろであったらヒャフンといわへてやるわ」

 ヒャフンと言わされるそうです。

「はーて、ろーやっれあのせんそーぼけおとこにあたしのいらいさをわからせてやろう?」
 かなめはウィスパード脳をフルパワーで働かせ宗介を社会的に抹殺する策略を練り始めたのです。

(うーん、うーん、既に社会的に抹殺されまくっている駄目人間をさらに困らせるには……)
 知識の源泉をとてつもなくくだらない事に使い始めるかなめでした。
(駄目だわ、いい案が思い浮かばない……そーだ! テッサ! ちょっと、そんな原潜の船殻構造の強度計算なんかしてないでちょっと力貸しなさい!)
 心の中ノ越なので舌も足りますし漢字も使えるのです。
(か、カナメさん!? なんですかいきなりウィスパードの力使って呼びかけないで下さい、コーヒーを淹れようとしてたときだったから驚いて眼前のマデューカスさんにポットの熱湯ぶち撒けちゃったじゃないですか)
(あー、ごめんごめん。で号令係のおぢさん大丈夫?)
(えーと茹でたかにさんみたいな色になってますが大丈夫っぽいです)
(うわー、ナマで見てみたーい。っと……そんな事はどうでもいいのよ。力を貸して欲しいの。しかも緊急で)
(なんなんですか?一体?)
(実はソースケをひどい目にあわせようと思ってねー)
(なっ、そんな事の為にブラック・テクノロジーは、ウィスパードの能力を使うものでは)
(ええーい、つべこべぬかすと精神乗っ取って松鶴屋千歳のモノマネでメリダ島一周させるわよっ)
 わっかるかなあ? わかんねえぇだろおなあ……
(だ、誰?)
(並列処理で宗介が困りそうな事を計算するのよっ)
(ちょっと待って。私そんなの嫌です……きゃあ!?)
 ちなみにウィスパードの共振を利用して並列処理を行うなどという能力が有るかどうかは定かでは有りません(多分無理)

(ちーん、計算しゅーりょー)
(ううっ、なんか汚された気分しくしくしく)
(あー、よしよし。泣かない泣かないほら飴あげるから)
(カナメさんが食べてる飴を共振で味わってもあんまり嬉しくないです。なんか変に甘味が弱いですし)
 人間の味覚は舌先が一番甘味を感じるようになっているそうです。



 こうして宗介に復讐を果たすべく竹薮に潜みアンブッシュをかけて数時間後、ようやく宗介が通りがかりました。
「ちどり、げんりょうしたいのならそんなところでじっとしてるよりうんどうをすべきだ。よかったらくんれんメニューをかんがえるぞ?」

 あっという間に見つかってしまいました。

「はーら、ほーすけ。きぐうれ。こんらところれあうなんてっ」
 精神で喋っているわけでは無いので未だにろれつは回っていません。
「そのわりには3kmさきからスナイパーライフルでねらっていたようだが? くんれんもしていないにんげんにはバイポッドもなしにそげきなどむりだ」
「うん、おもくてじゅうこうらずーっとブレるろよ。おかげれうでのきんにくがつっちゃっれ」
「で、なんのようだ?」
「え? えーとえーとえーとえーと……そ、そーら! いっしょにおべんとうたべようとおもっれもってきたのよほら」
 そういってかなめは大きいつづらと小さいつづらのふたつを宗介の眼前に「でん」と並べました。

「さあ、どっちでもすきなほうをたべていいわよん」
「なにやらおおきさにふしぜんなさがあるのだが……『王立科学博物館』??」
 小さいほうのつづらに穴を開けて光ファイバーカメラで中身を覗き込んだ宗介が不思議そうな声でつぶやきました。
 食玩です。
 ちいさいガムが二個です。
 宇宙時代の科学ガムです。
「むう、L−カルチニンはしぼうのねんしょうをそくしんするがさすがにそれではにちじょうせいかつにひつようなカロリーをせっしゅできないとおもうが?」
「あ、あははははぢゃ、ぢゃあソースれはこっひのおおきいつづらのなかみをたべるといいわよ。ささ、なかみをチェックしたりへずにぐぐーっといっきに。っていきなりきんぞくたんちきつかうなほうしゃのうそくていきあてるなXせんでとうししようとするなー!」
「しかし、このコンテナはせんじつフランスでおきたテロにつかわれていたものにこくじしているのだが……」
「んなわけあるかっ!? ばかなこといってないれさっさとくう!」
 せかされた宗介がつづらを開けると中にはアーバレストのあたまほどもある巨大なオニギリが鎮座ましましていました。
「いったいどうやってにぎったのだろう?」
「さあ、どうろめしあがれいっきに……おいひい?」
「こんかいはしょうじきいうなら、いまひとつのあじだが(ばりぼり)」
「……」
「どうした? ちどり、かおいろがわるいぞ。 げんりょうのしすぎでひんけつでもおこしてるのではないか?」
「は、ははは。 そのセミっぽくない?」
「いわれてみればセミっぽいな。ほそくするならムカデっぽくてクモっぽいうえにねずみあじだ(ばりぼり)」
「ふ、ふーんそう。おかひいわねえ……きぶんがわるくなったりおなかいたくなったりしない?」
「もんだいない(ごりごり) こんどはヘビか……なんべいにいたときのことをおもいだすな。あのときはひどいスコールがふりつづきほきゅうがたたれおれたちはうえとつかれと、なによりいつおそいかかってくるかもしれないゲリラたちにおびえていた(ぼりばり)ふむケムシが出てきた……おや、ちどり。どこへ?」
 きょだいオニギリを食べ終わった宗介が顔を上げるとかなめが青い顔(後姿だったので宗介には解らなかったが)で地平線の彼方に走り去っていくところでした。
 後に残された食玩を拾い「戦車のほうがいいのに」などと言いつつ拾い上げ、去っていきました。



 その後……
 千鳥かなめはそれから宗介の家は決してつまみ喰いをしないと誓い、宗介は新しい事業としてパリっと糊を効かせたボン太くんスーツをリリース。
 しかし、地肌に毛皮が張り付いて折り目がビシシと入っている角ばった姿は人々の購買意欲をそそることは無く、大量の在庫を抱え、よりいっそう貧しい生活を余儀なくされましたとさ。

めでたしめでたし。 

2002年5月31日(いや、わかっている本当は2003年8月26日なんだ。すまん)
「うさぎとメカ」
 むかしむかしのことでした。
 あるところに一匹のうさぎがおったそうな。
「……うう、たんれんとしょうしてひるもよるもなつもふゆもあめのひもかぜのひもあらはばじんじゃのかいだんをうさぎとびでおおふくしていたらからだがうさぎとびのかたちでかたまってしまった」
 あほです。

 うさぎの名前は椿一成といいました。
「サガラのやつをたおそうとこころにきめてとっくんにつぐとっくんのひび、からてどうこうかいのなかまもしゅぎょうについてこれずひとり、またひとりとたおれいまではおれひとり。 ……ふ、しかししょせんぶどうかにたよれるものなどおのがにくたいのみということか」
 うんこすわりで言っても格好悪いだけです。

「む、あそこにいるのはサガラ!? ちょうどいいこのばでけっとうをもうしこんでやるっ」
 うさぎ一成は猛然とダッシュして何故か亀のコスプレをした宗介に襲い掛かりました。
 ……うさぎ跳びで。
「くらえ!かめぇ。だいどうみゃくりゅうおうぎ『迫閃禽』!!」

 っていっ、ていっ、そりゃ、せええーい。
 ぶんぶんぶん。

「コサックダンスか? なかなかのものだがカリーニンしょうさにくらべればまだまだあまいな」
 なぜかへんにやさしいめでそうすけにみおろされてしまいました。
「う、うるせぇ! おまえにおれのくやしさがわかってたまるかっ!」
「ところでぶきみせいぶつ。きょうはいったいなんのようけんだ? おれはいそがしいんだ。さっさといえ。
「ぶきみせいぶつとはなんだ、みてわかるだろう? うさぎだ!」
「まんなかでしろとくろにぬり分けられたなぞのとりにみえるのだが」

 鵜・鷺だそうです。

 うさぎ一成はなみだながらにいっしょうけんめい蹴り(コサックダンスではないそーな)をおみまいしようとしますがかめ宗介はバックステップでかわしてしまいました。
 かめ宗介はいろいろと追及したい気もしましたがあんまりうさぎ一成が一所懸命主張するので納得してあげる事にしました。
「では、うさぎ(暫定)よ、はなしはかわるがはだしであしをけりだして『はくせんきん』というのはさすがにもんだいがあるのではないか?」
「おれもそうおもう。こんどおやじにそうだんしてなまえをかえてもらってくる……いや、そんなことはどうだっていい! しょうぶだかめ! あしたのほうかごでんせつのきのしたへこい!」
「ま、まさかこくはくを!?」
「だーっ、なぜそこでほほをそめるきさま! かけっこだ!かけっこ。でんせつのきのしたからうさぎとびで10kmはなれたじんだいこうこうまでかけっこだ!」
「つばきよ、うさぎとびはひざかんせつをはかいするぞ? うさぎをながくつづけたかったらほどほどにひかえるべきだ」
「だれがながくつづけたいかっ!?」
「そうか、よくにあっているのにざんねんだ」
「と・に・か・く! ようけんはつたえたぞ。いつもみたいにすっぽかしたらしょうちしねえぞ! いいな」
 そう言うとうさぎはさっていきました……うさぎとびで。

 翌日。

「な、なんのつもりだ。きさまぁ」
「む、うさぎとびできょうそうときいていたのでそれそうおうのそうびをよういしてきたのだが?」
≪はい、ほんらいうさぎとびはせんもんぶんやではありませんがわたしのきゃくぶはバッタのきんにくこうぞうをもしたきこうがないぞうされておりひととびで40メートルはかるいです。しかもかんせつぶにはべいぐんのしゅりょくせんとうきのちゃくりくきゃくとどうていどのしょうげききゅうしゅうのうりょくをそなえており、どうしました。……へんなとりのひとせんじょうになみだはにあいません。 さあ、これでなみだをふいて≫
 うさぎの眼前に油にまみれた大きなボロ布をがさしだされました。
「いるかっっそんなこぎたないボロぬの! おまえせいせいどうどうのしょうぶにそういうものもちだしてはずかしいとはおもわないのかっ」
 うさぎ一成はかめ宗介のほうを見上げるとびしっと指を突き上げました
「ボロぬののどこがひきょうだというのだ?」
≪ひどいです。せっかくあいようのハンカチをかしてあげようとおもっただけなのにしくしく≫
「アル。とうぶカメラアイのせんじょうえきをむだんでながすんじゃない」
≪りょうかいしました。ぐんそう≫

(くそっ、なんてやつだ。こんなひれつなやつにおくれをとるのはぶどうかのはじだ。みてろ! おれはどんなこんなんがまっていようともかならずしょうりしてみせる!)
 漫才をはじめるアーバレストとかめ宗介を尻目にうさぎ一成は心の中で決意をあらたにしました。

 こうして紆余曲折の末、ようやくスタートラインに2人はならび、いよいよレース開始です。
「ときにうさぎよ。レースまえにだいじなことをおしえておかないといけないのだが」
「なんだ、はやくしろ」
 そういってアーバレストが突き出した右手にはなぜか風間君がつままれていました。
「な、なにをするんださがらくん。まってよ。ぼくらともだちだろっ」
「だまれ、あたまのなかでたねがわれるようなばけものはこうだっ」

 ぽーい。

 どっかーん。

「せんじょうからにげだすこしぬけへいが」
 さっぱり解りません。

「このようにきょうぎせいをたかめるためコースのいたるところにじらいをせっちした」
「まてー!それはしゃれですまねえぞっ!」
「しんぱいするな、かやくのりょうはへらしてあるのでしにはしない。せいぜいこっせつするていどだろう……ARX−7ならものともしないが」
「かざまこっぱみじんにふきとんだぞ!?」
「とうぜんのむくいだ」
「そーじゃなくて!」
 うさぎの抗議に腕を組んで考え込むアーバレストでした。
「もんだいない。ARX−7のたんさのうりょくならじらいをはっけんするくらいわけないぞ?」
「おれはどーすんだ!?」
「こっちのあとをついてくればいいだろう?」
 くびをかしげながらアーバレストはうさぎをみおろしました。
 中にいるかめ宗介の表情はうかがえませんがきっとけげんそうなひょうじょうをしているでしょう。
「よんじうめえとるもじゃーんぷできるやつについていけわけがあるかっ、そもそもあとをついていったらレースにかてねぇだろうがっ!」
「ふーむ、ではこんかいはおれのかちということでいっしゅうかんおまえのみせでごうかちゅうかりょうりたべほうだい」
「まけなどみとめるかっ! しかもなんだおれのみせでたべほうだいってのは?? ンな約束何時決めた!?」
 つばをとばしてわめくうさぎに対し、アーバレストは不潔そうに足をどけました。
「おちつけ、つばき。せりふのさいごがかんじになってしまっているぞ」
「しーるーかー!? もういい、そのじょうけんでさっさとレースをはじめるぞっ」

 そうしてレースがはじまりました。
 ヤケを起したうさぎは自らの限界を超えて人間(鵜鷺だけど)の限界を超えたスピードでぴょこたんぴょこたんと地雷原を何故か避けながら進んでいきました。
「まずいな。まさかつばきのせんざいのうりょくがこれほどとは。このままではレースに負けてしまう。」
≪ぐんそう。みぎてのコントローラにあたらしくぞうせつされたカバーつきのスイッチをおしてください≫

「これか?」

 ぽちっ

 かめ宗介がカバーを開けてスイッチを押すと同時にアーバレストの掌から不可視の衝撃波が巻き起こりうさぎ一成に襲い掛かるとその体躯を成層圏の外まで吹飛ばしました。

「なんだいまのは?」
≪はい、テスタロッサたいさがさけによったいきおいでかいはつした『おまかせ☆ラムダスイッチ』です。ぐんそう」
 えっへんと誇らしげにアーバレストは胸を反らせました。
「それはいいがしょうぶにかったのにごうかちゅうかりょうりをたべそこなったではないか」
 まったくテッサにも困ったものです。




 こうして月では今でもうさぎがしりもちをついているそうな。



 ふるめたむかしばなし
 〜鵜鷺は舞い降りた〜

 了

2002年5月30日(凄く遅れて本来の日付は2003年8月4日)
「フルメタ昔話・灰被り姫」
 むかしむかしあるところにそれはそれはドジでドジでドジでドジでノロマでとんまで救い様が無いほど哀れな少女が居ました。
 なんか妙な病気でも患ってるんじゃ無いかと心配されるほど平衡感覚に深刻な問題が見受けられたため、その少女はよく家の暖炉に特攻し、いつも灰色の頭をしていたため「シンデレラ」と呼ばれ蔑まれたり嘲笑されたり同情されたり萌えられたりしていました。

「わたしのかみはもとからこういういろでそんなにいつもいつもすべってころんでだんろにとつにゅうしているわけではないです! そう……せいぜい2,3かいくらいでしょうか? いちにちにごにょごにょごにょ」

 そんな彼女ですから時には火の入った暖炉に飛び込んで紅蓮の業火に包まれたり、暖炉よりさらにヤバ気の所にブチ当たったりして頭の天辺から血まみれになることもしばしばなので「テスタロッサ」と呼ばれることも有りました。



 そんなギリギリ崖っ縁人生をすごしていたある日のことです。
 シンデレラは意地悪な継母と姉たちに呼び出されました。

「おー、テッサたん。テッサたん。こんやはワシら3人おしろのぶとうかいによばれたんじゃ! ほんとうはワシがやさしくエスコォトしてつれていってやりたいのじゃがあいにくテッサたんのぶんのしょうたいじょうがなくてのぉ。わるいがこんやはおるすばんじゃ」
 継母が言いました。
 
「んー、んー、たのしみじゃのう。おしろできらびやかにきかざっためんこいギャルたちを(自主規制)して(自主規制)して(検閲削除)して」
 義姉の1人が言いました
 最低です。

「山海の珍味を取り揃えた豪華な飯をたらふく貪り食って……おっととと心配せんでええぞテレサ。ちゃーんとお土産の柿の種とキリンレモンを貰ってかえってやるからな」
 と、義姉の1人が言いました。
 今ひとつ役になりきれてないようですがそこはそれ。ジジイというのはあまりTPOをわきまえた行動を取れないものです。
 ついでにいうとケチです。

「ファッ○ン・サバトぢゃっ! あのファッ○おしろのファッ○ンパーティをファッ○してクソのよーなファッキ○きぞくどものファッ○ン・アス○ールに○×△をさわやか三組して」
 さわやか三組はHNK教育の番組なので別に放送禁止用語では無いと思われます。

「ふがふが、テ、テッサちゃん。すまんがワシのオシメをとっかえてもらえんかの? お、おぶつにまみれたワシのオシメを……テッサちゃんのそのしろくほそいゆびさきでやさしくとりかええぇぇぇハァハァ。しゅ、しゅうちぷれいぢゃっ! た、た、たたたたたまらんのぉ。テッサちゃんほれっ、ほれぇ。はようはようー ……ところでメシはまだかいの?」
 何故か1人だけ、取り返しが付かないほどボケてしまっていました。

「わ、わかりました。わかりましたからさっさとでかけてください」
 継母とか義姉とか名乗るのもおこがましい汚らしいジジイ共はわあわあ騒いで近所に迷惑を掛け捲ってお城に出かけていきました。
「ふう……あれじゃ多分お城の前で衛兵に射殺されるのがオチでしょうね」
 ボーダ提督と神田署長、秋山副所長、袴田刑事課長を見送るテッサ。
 ボーダ提督の名前は辛うじて記憶の端に残っていた様ですが残りは思い出したくも無かったので適当な名前をつけたテッサ。

 なんだか一人足りないようですが彼女にとっては些細な問題です。



「そう言うわけで、なぞのまほうつかいそしき『ミスリルルゥ(巻き舌で発音)』から来ました。さがらそうすけぐんそうです」
「……」
 継母と義姉達を見送り家の中に入ると、何故かそこには漆黒の番傘と同じく漆黒の二重回しを手にし、真っ黒い着流しの上に清明桔梗を染め抜いた薄手の黒い羽織をまとい、黒い手甲に黒い足袋、黒い下駄という全身黒ずくめの相良宗介が……
 ただどういう冗談かは解らなかったのですが黒下駄の鼻緒だけはネオン管で出来ていたのかちかちか明滅していました。

「え、えーとおがみやさん??」
 いぶかしげに問うシンデレラに対して相良宗介はまほうつかいですと反論を封じ、あなたを舞踏会に行かせてさしあげましょうと言った。
「で、でもぶとうかいにいきたくてもわたしにはドレスもなにもないのです」
 そもそも普通に歩くだけでも鎌田行進曲で池田屋の階段落ちを演じるよりも壮絶なコケっぷりを披露するシンデレラがまともにダンスを踊れるとは到底思えません。
「もんだいありません。そのようなじたいをそうていしてあっとうてきふりなせんきょくをだかいすべく、ぶとうかいこうりゃくせんのためそうびをよういしてまいりました」

 そういって魔法使いの相良軍曹は懐からカボチャを取り出しました。
「……パイナップルですね」
「は、なにぶんじかんがたりなかったのでじぶんのへやからにたようなものをピックアップしてまいりました。ほかにはジャガイモつぶしきなどもありますが……」
「それぜったいにちがいますよ」
 画像が無いのでこの二人のやり取りもさっぱり訳が解りません。
「つづいてマウスですが、さすがにこのいえにはいりきらないのでおもてによういしていおきました」
「ねずみ?」
「マウスです」
「その……パソコンとかでつかう?」
「いえ、そのマウスではありません。ほうとうぶぶんもハリボテではなくほんものです。ソビエトのクビンカはくぶつかんからひごうほうなルートでにゅうしゅしました」
「ひごうほう?」
「くどうほうしきはディーゼルとモーターのハイブリット。しゅぶそうは128mmほうなのでASといえどちょくげきをくらえばこっぱみじんです」
 何の話かさっぱりわかりません。

「なお、マウスのぎょしゃはフランスぐんのラスペギーたいさひきいるだい10パラシュートぶたいにおねがいしました」
「なぜパラシュートぶたいがせんしゃを!?」
 もう、何処がどう面白いのかすら解りません。



「さて、つぎはドレスですが」
「な、なんなんですかこれは?」
 シンデレラは相良軍曹の偏ったミリタリ談義を散々聞かされた挙句、ドレスと称してどこでこさえたのか解らない鎧をまとった変なきぐるみを渡されました
「それはさいしんがたの『ボン太くんスーツ・アサルトシュラウド』といいましてじゅうらいがたにはなかったとくしゅきのうがついかされて……ふもっふ」

 装・着!

「サガラさんがじぶんできちゃってどうするのですか!?」
 ボン太くんに手渡された通信機で会話するシンデレラでした。
「まずだいいちのきのう!『ボン太くんエレクトリッガー!』」

 ぺと。

「あっ、けがわをこすってせいでんきでわたしのかみをくっつけてあそばないでくださーい」

「つづいてだいにのきのう! ちょうじかんそうちゃくによるストレスからそうちゃくしゃをまもる『リクライニング機能』」

「ななめにかたむいただけにみえますが……」
 聞いていないようです。

「さいごにきゅうきょくそうび『歯を剥き出して嗤う』!!」
「うわー、うわー、うわー! こわっ、はをむきだしにするボン太くんすっごいぶきみです!」
 きゃいきゃいと叫びながらなぜか追い掛けっこを始めてしまうシンデレラとボン太くん。
 そんな時……

ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん

ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん

ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん

 馬鹿やって遊んでいるうちに時計の金が2400時の時を告げます。
「おれとしたことがなんということだ。いつのまにかさくせんすいこうのよていじかんをオーバーしてしまうとは。このままではまほうがとけてしまう」
魔法なんか使っていません。
「すまないがこんかいのさくせんはだんねんしてこのばをてっしゅうする。さらばだ」
 いそいそと帰り支度をするボン太くんは、ぽかんと口をあけて見送るシンデレラに片手をあげ(敬礼のつもりらしい)颯爽と去っていきました。
「いったいなにをしにきたのでしょうか?」
 後には相良軍曹が回収し忘れた黒下駄が片方だけ、ネオン管の鼻緒をピカピカさせていました。



 そのころお城に到着したシンデレラの継母達は千鳥王子にセクハラ発言を行った罪で老人ホームの奉仕活動を命じられてしまいました。
「ファッ○じゃ。あんまりじゃ。なんか儂らより歳下のファッ○ン・ニュー・ガイがおるじゃないか」
「ううう……わかい娘が。近くに若い娘がおらんと力が出ないよう」
「吸われる……ワシの若さがエナジィがヨボヨボのぢぢい達に吸われていくぅぅぅ。しおしおのぱーじゃ」
「ふがふが、オシメ」
「どっちが介護される側か解らんのが1人おるが……いいのか?」


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