ラムサール(地名:地方国 及び 地方国首都)


略称     …… 羅国
現国王    …… ジャムシード6世
気候     …… 亜熱帯型気候
年間平均気温 …… 21.8度(夏至28.2度 冬至15.4度)
年間降水量  …… 2236.2mm
標高     …… 4m
主要産業品  …… 砂糖とラム酒、魚類と干物、鯨肉と竜涎香
人口     …… 首都ラムサールに20000人前後
産業別人口  …… 第一次65% 第二次29% 第三次6%



・概要

 阿国の南に位置する都市であり、羅国の首都でもある。
 高温多湿の気候であり、石造りの建物は比較的少なめ。主流は木造二階建てだが、王城などの建物は近くの石切り場から切り出してきた花崗岩が使われている。
 砂糖、ラム酒、干物、燻製鯨肉などが主要産業品のため、他の町より加工業に携わる人間が多い。
 鯨漁が盛んなこの街は入り江の奥に位置する天然の良港であり、それゆえ国でも有数の規模の港がある。水深は岸の近くまで深い所が続いており、場所によっては大型船が直接接岸できるほど。荷物の積み込みに極めて適している事から、海峡を挟んで南に位置するエイブラブ共和国への輸送基地として栄えている。
 春と秋には大きなパレートがあり、その時期は観光客で賑わう。これは海と大地の神に感謝し、次の季節も豊作・豊漁を願うものである。
 水源は阿国の中心にあるザード山を源流とするケスプ川。



・気候

 国土の大部分が温帯に属している阿国だが、このラムサールだけは例外であり亜熱帯に属している。とは言え海からの季節風の影響で湿度はそこまで高くならず、かなり過ごしやすい。
 この辺りは夏になるとハリケーンが来る事があり、人々はそれの対策に頭を悩ませている。街のいたるところに生える木々は、日蔭を提供すると共に防風林の役割も果たしている。



・主要産業

 主要な産業品は郊外の広大な畑で作っているサトウキビと、年に二回ほど『渡り』のため沖を通る抹香鯨から取れる竜涎香・鯨油。副産品としてサトウキビからはラム酒が、抹香鯨からは鯨肉と髭や骨が取れるが、それらも有名である。特に鯨肉のジャーキーは珍味として最近人気が高まっているのだが、知識人からは鯨肉のジャーキーを作るため鯨の乱獲が行われのではないか、という声もあがっている。
 近海は突然深くなる地形のため魚は少ないが、沖に出れば暖流の流れる海峡があるため大型の回遊魚が捕れる。特にカツオの生肉の表面を強火で炙った『カツオの叩き』はラムサール名物であり、「カツオを食べないと夏が来た気がしない」と街の住人の間で言われているほど。



・運河

 物資の輸送をより効率よくするために、街には海への運河が3本、その運河同士を繋ぐ運河が3本作られている。これらは元は普通の川だったのだが、街の流通を活発化させるため国王が建造を命じ、10年の歳月をかけて造られたものである。
 排水能力は高く、大雨は過去に何度も街を襲ったが、運河を造て以来は一度たりとも洪水は起こっていない。



・パレード

 立春の日、春分の日に行われる街をあげての祭り。
 元は海の精霊と大地の精霊に巫女が感謝と供物を捧げ、来年の豊作と豊漁を願うためのものだったのだが、今では海の精霊の仮面をつけた人々と大地の精霊の仮面をつけた人々が通りを練り歩き、最後に王城前の広場に集まり、希望者の中から抽選によって選ばれた『太陽の巫女』が精霊への感謝の言葉を述べるというパレードになってしまった。
 このパレードは阿国で最も規模が大きいものであり、立春と春分の前後日は街が観光客で溢れることとなる。そのため治安も悪くなるが、街の自警団や警備隊が徹底して治安維持にあたっているため、精々が酔っ払いのケンカといったところで今まで大きな事件や事故は起こっていない。
 祭りの時期になると運河の側には観光客を目当てにした屋台や露店が建ち並び、街中が美味しそうな匂いに包まれる。
 屋台は食べ物の類が中心で、味のほうはピンからキリまである。しかしこの街の屋台は腕のいい人が多く、キリに当たる可能性はとても低い。
 露店は雑貨が中心で、たまに菓子を扱う店もある。街特産の砂糖を使用した綿菓子や蜜飴、鯨の骨や髭を利用した工芸品が人気で、最近ではパレードをそっちのけにして露店を見て回る人すらいるという。
 なお、祭りで使われる青を基調とした海の精霊の仮面、緑を基調とした大地の精霊の仮面、赤を基調とした太陽の巫女の服は素晴らしい出来であり、また持っていれば家族全員が精霊の加護を受けれるとも言われているため、大勢の観光客がこれらのレプリカを土産として買って行っている。特に太陽の巫女の服はデザインも色使いも素晴らしく、彼女や娘にプレゼントする目的で買う男性が多い。



・王城

 街の中心に位置する小高い建物が、王城であるラムサール城である。
 城の周りが運河で囲まれており、城へ繋がる道は跳ね橋一つでかなり堅牢。場内には数年分の食料が蓄えられており、もし運河に毒を投げられてもいいように専用の井戸を持ち、城の一角には畑もあるためかなり堅牢。
 他の国の王城と比べて城の高さが低いが、これはハリケーンの被害を抑えるため。
 内装は豪華なものの決して悪趣味なわけではなく、品のよさが伺える。特に玉座の間にある巨大なステンドグラスは見事な出来栄えで、王もとても気に入っているとか。



・国王

 現在国を治めているのは、名君として名高い『平民王』ジャムシード6世である。
 先代国王もまた名君であったが、女好きだというのが欠点であった。前王が身分を隠して街に遊びに行き、市井の娘と愛を語り合った事は一度や二度ではない、という話は有名だが、現王もまた身分を隠した前王と町娘の間に生まれた息子なのだ。
 しかし、正室との息子でなければ王位継承権を与えられていても余程の事が無い限りは王位にはつけない。
 では何故、彼が王位につけたのか?
 第一の理由は、第一王位継承権を持っている王子が死亡した事である。
 王子を乗せた船が沖合いで嵐に遭遇し、難破したのだ。船に乗っていた人間のうち生還者は一人たりともおらず、彼らの遺体は海の魔獣に食べられたのか見付からなかった。ただ船の破片のみが、嵐の三日後に街の海岸へ漂着しただけであった。
 第二の理由は、彼を傀儡に祭り上げ甘い汁を吸おうとした大臣の存在である。
 邪魔な人物を次々に毒殺し影で『毒奉行』と呼ばれた大臣は、まだ幼かった彼を傀儡にすべく画策を巡らせていたのだ。ほとんどの王位継承権所持者(犠牲者の中には王妃その人すらいた)を暗殺しており、その企みは途中まで上手く行ていた。事実、現王より高い王位継承権を持つ者は全員が『事故死』あるいは『食中毒』で死亡している。しかし王妃毒殺の証拠を王が入手した事により企みが白日の下に晒され、極刑に処されることとなった。
 一時は現王と大臣の結託も噂されていたのだが、大臣の残した書類や親大臣派だった官僚たちの話を調べた結果、現王は利用されていただけだと証明されることとなった。
 そして第三の理由は、現王がきわめて聡明であった事である。
 学問にも武術にも礼儀作法にも通じ、それでいて思慮深く穏やかな性格。庶民の出であるため民衆の心を理解でき、また義母や異母兄弟たちが謀殺されたため悪事を強く憎んでいる。
 前王は現王に良君としての資質を見出しており、大臣の処刑に伴う後始末を全て片付けると、王位を現王に譲ったのである。現王の即位は、国民の熱狂的な祝福が響く王城前の広場で行われ、かくして現王は王冠を戴く事となったのだ。
 なお、『前王が大臣の陰謀を暴いたのではない。亡くなったはずの王子が数人の仲間と共に前王の元に現れ、調べ上げた全ての証拠を差し出したのだ。大臣の陰謀を暴き王国の平和を守ったのは王子なのである』という噂が国のあちこちで囁かれている。



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